アンカーとボランチの違いと近代サッカー学

2017年9月6日

アンカーとボランチの違いと近代サッカー学

基本的にサッカー用語は、発祥の地イギリスの言語である英語が使われています。しかし、中には「ボランチ」のように英語ではないサッカー用語もあります。実はこれ、日本やブラジル、あるいはポルトガルでしか通用しないローカルなサッカー用語なのです。ボランチとはポルトガル語で、舵取りという意味の言葉で、主に南米のサッカー用語です。

ボランチはMF(ミッドフィルダー)の一種ですが、もう一つ、最近使われることが多くなったサッカー用語に「アンカー」があります。アンカーは英語ではanchorとなり、ポジションはボランチと同じくMFの一種を指しています。
同じMFなのに、ボランチとアンカーとはどこがどう違うのか?誰もが疑問を持つところでしょう。そこで、ポジションとしてはMFに属する、アンカーについて、ボランチとの違いを絡めて解説します。

アンカーの役割を知ると、長谷部選手がキャプテンにふさわしい理由が分かる

●日本代表MF長谷部選手の役割
サッカー日本代表のメンバーを見ると、中盤のMFに遠藤保仁選手と長谷部誠選手の名前があります。この2人はどちらもMFですが、実は遠藤保仁選手がボランチで、長谷部誠選手がアンカーなのです。この2人のポジショニングや試合中の動きはどうかと言いますと、司令塔的な役割をするのはどちらも同じです。ただ、遠藤選手のほうがどちらかと言えば長谷部選手より派手に見えるような気がしませんか?
遠藤選手は中盤の要として常に前線にいるFWや攻撃的MFにロングパスを送り、たまにですがチャンスと見るとミドルシュートを打つこともあります。つまり遠藤選手は、どちらかと言えば攻撃的な役割を果たすMFなのです。
一方、長谷部選手はDFの吉田選手との連携が目立ちます。DFの隙間を埋めるようなポジショニングを取ったり、身体を張って相手選手を阻止したり、ボールを奪取したりと、どちらかと言えば守備的な動きが多いMFで、長谷部選手がゴールを狙うシュートを打つシーンはほとんど見たことがないでしょう。これがアンカーなのです。長谷部選手は、アンカーとしての役割である守備をしながらも、味方のFWあるいは前にいるMFにパスを送り、ボールをコントロールしています。

●アンカーに求められていること
アンカーは錨(碇とも書く)という意味で、中盤の底を固める重石のような役割からそう呼ばれるようになったそうです。そのため、アンカーを重視するフォーメーションは4-3-3であり、守備重視の布陣を意味します。優秀なアンカーに求められるのは、試合の流れを読めて次のプレーを予測できる選手…つまりインテリジェンスなポジションをこなせるセンスと動きです。
こうして見ていくと、長谷部選手が日本代表のキャプテンマークをつけている理由が、アンカーの役割からも分かってきます。

近代サッカーで重要な役割を持つアンカーの意味と役割まとめ

それではおさらいを兼ねて、まとめてみましょう。サッカーでのアンカーとは、英語のanchor(錨・碇)で、中盤のMFポジションの底を固めて守備を安定させる役割を持つ選手を指します。
アンカーは、試合中の流れを的確に読み取り、守備を意識しながらボールコントロールをします。つまり、アンカーは守備に徹するMFと言うだけではなく、隙あらば攻撃に転じるためのボールコントロールもする司令塔なのです。ただし、あくまでも守備的MFの色合いが濃いポジションであることに変わりはありません。
そのため地味な存在に見えるかも知れませんが、近代サッカーでは、チーム全体の動きを常に予測し、的確なパスを前線に送り、同時に相手選手のブロックもDFの前で行うため、ピッチの上では大忙しのポジションです。
ここが同じMFでも攻撃的な配球が求められるボランチの役割と異なる点であり、今時のサッカー戦術ではアンカーが極めて重要な役割を果たすと考えられているのです。

世界にはこんなにたくさんのアンカーがいる

どんな選手がアンカーなのかと言うことになると、議論が分かれるところかも知れません。それは、時代の変化によってアンカーの役割もかなり変わってきているからです。とは言え、誰もがアンカーと思えるような選手達を挙げていきましょう。

●アンカーを代表する選手シャビ・アロンソ
海外のサッカーに詳しい人は多分例外なく、シャビ・アロンソの名前をあげるのではないでしょうか。シャビ・アロンソはかつて世界的名門クラブであるレアル・マドリードで大活躍し、現在はドイツのブンデスリーガの強豪バイエルン・ミュンヘン<に所属する選手であり、同時にスペイン代表選手でもあります。アロンソ選手のポジションはMFで、そのアンカーとしての力量はずば抜けていると言われています。DF陣の前に陣取る選手として相手に当たり負けしない体格とパワーを持ち、相手の攻撃を読むセンスに長け、守備を行うタイミングもポジショニングも抜群。それでいながら、攻撃的MFの名手にも匹敵するパスの技術と視野の広さを持っています。まさに「中盤を支配する存在」と言える選手でしょう。
アロンソ選手は「バスクの星」という異名を持つほどのスター選手であり、最近の長谷部選手はアンカー役を任された時にシャビ・アロンソ選手を参考にして研究をしたそうです。

●その他のアンカーと呼ばれる選手達
少し独断的かも知れませんが、世界にはセルヒオ・ブスケツ・ブルゴス選手(FCバルセロナ)や、マイケル・キャリック選手(マンチェスター・ユナイテッドFC)、スヴェン・ベンダー選手(ボルシア・ドルトムント)、そして、今は現役ではありませんが、マルク・ファン・ボメル選手など優れたアンカーがいます。
2010年の日本代表では阿部勇樹選手はまぎれもなくアンカーという役割を果たしており、見方次第では遠藤保仁選手もアンカーの役割を担う時があるかも知れません。また、海外組の細貝萌選手の役割を見ているとアンカーと定義することもできるでしょう。